書経 周書(一)

泰誓上・泰誓中・泰誓下・牧誓・武成 ――武王、殷を討つ

この読本について

周書は全32篇と書経中最大のパートです。今回はその第一弾として、周の武王が孟津に諸侯を集めて殷討伐を誓う「泰誓」三篇、牧野の決戦に臨んで軍を戒める「牧誓」、そして殷討伐の完了を告げる「武成」の5篇――殷周革命の物語をお届けします。

① 泰誓上(たいせいじょう)

武王十三年、孟津に諸侯が大集結し、武王が殷の紂王の無道を数え上げて討伐の意を誓う。

惟十有三年、春、大會于孟津。王曰、嗟我友邦冢君、越我御事庶士、明聽誓。惟天地萬物父母、惟人萬物之靈。亶聰明、作元后、元后作民父母。今商王受、弗敬上天、降災下民、沈湎冒色、敢行暴虐。罪人以族、官人以世。惟宮室臺榭陂池侈服、以殘害于爾萬姓。焚炙忠良、刳剔孕婦。

十有三年じゅうゆうさんねんはる、大いに孟津もうしんかいす。王曰わく、ああ友邦ゆうほう冢君ちょうくん御事ぎょじ庶士しょしおよびて、あきらかにちかいけ。惟れ天地てんち万物ばんぶつ父母ふぼ、惟れひとは万物のれいなり。まこと聡明そうめいなるもの元后げんこうり、元后はたみの父母と作る。今商王受しょうおうじゅ上天じょうてんうやまわず、わざわい下民かみんくだし、いろ沈湎冒ちんめんぼうし、えて暴虐ぼうぎゃくを行う。人をつみするにぞくを以てし、人をかんとするにせいを以てす。惟れ宮室台榭陂池侈服きゅうしつだいしゃひちしふく、以てなんじ万姓ばんせい残害ざんがいす。忠良ちゅうりょう焚炙ふんしゃし、孕婦ようふ刳剔こてきす。

十三年の春、孟津に大いに集会した。武王は仰せられた。「ああ、我が友好国の君主たちよ、そして政務を司る多くの士たちよ、はっきりとこの誓いを聴くがよい。天地は万物の父母であり、人は万物のうちで最も霊妙な存在である。まことに聡明な者が元首の君主となり、その元首は民の父母となる。今、商王の受(紂王)は、天を敬わず、下々の民に災いを降し、女色に溺れ、あえて暴虐の限りを尽くしている。罪人を罰するのに一族もろとも処罰し、人を登用するのに世襲の家柄によっている。宮殿や高台、池、贅沢な衣服にふけり、それによってそなたら万民を害している。忠実で善良な者を焼き殺し、身重の女性の腹を裂いている。」

皇天震怒、命我文考、肅將天威、大勛未集。肆予小子發、以爾友邦冢君、觀政于商、惟受罔有悛心、乃夷居、弗事上帝神祗、遺厥先宗廟弗祀。犧牲粢盛、既于兇盜。乃曰、吾有民有命。罔懲其侮。

皇天こうてん震怒しんどし、文考ぶんこうに命じて、つつしんで天威てんいおこなわしめしも、大勛たいくんいまらず。ついわれ小子発しょうしはつなんじ友邦ゆうほう冢君ちょうくんを以て、まつりごとしょうるに、じゅ悛心しゅんしん有ることく、すなわ夷居いきょし、上帝神祗じょうていしんぎつかえず、せん宗廟そうびょうててまつらず。犠牲粢盛ぎせいしせいすで兇盗きょうとうけり。乃ち曰わく、われたみ有りめい有り、と。あなどりをらすこと罔し。

「偉大な天は震え怒り、我が父・文考(文王)に命じて、慎んで天の威光を執行させようとされたが、その大業はついに成らなかった。それゆえ、この私、小子の発(武王)は、そなたら友好国の君主たちと共に、商の政治のありさまを観察したところ、受(紂王)には悔い改める心が全くなく、傲慢に安住し、上帝や神々にお仕えせず、その先祖の宗廟を打ち捨てて祀ろうともしない。祭祀に供える犠牲や穀物は、すでに悪辣な盗人の手に渡ってしまっている。それでも彼は『私には民があり天命がある』と言い、その侮り高ぶった態度を改めようとしない。」

天佑下民、作之君、作之師。惟其克相上帝、寵綏四方。有罪無罪、予曷敢有越厥志。同力度德、同德度義。受有臣億萬、惟億萬心。予有臣三千、惟一心。商罪貫盈、天命誅之、予弗順天、厥罪惟鈞。予小子夙夜祗懼、受命文考、類于上帝、宜于冢土、以爾有眾、厎天之罰。天矜于民、民之所欲、天必從之。爾尚弼予一人、永清四海、時哉弗可失。

てん下民かみんたすけ、これきみつくり、之がを作る。惟れ上帝じょうていたすけて、寵綏ちょうすい四方しほうにせしむ。つみ有り罪無きに、われなんぞ敢えてこころざしゆること有らんや。ちからおなじくしてとくはかり、徳を同じくしてを度る。じゅしん億万おくまん有りて、惟れ億万心おくまんしんなり。われ臣三千さんぜん有りて、惟れ一心いっしんなり。しょうつみ貫盈かんえいし、天命てんめい之をちゅうす、予天てんしたがわずんば、厥の罪惟れひとし。予小子しょうし夙夜しゅくや祗懼しくし、命を文考ぶんこうに受け、上帝にるいし、冢土ちょうどし、なんじ有衆ゆうしゅうを以て、天のばついたす。天民たみあわれみ、民のほっする所、天必ず之に従う。爾らねがわくば予一人いちにんたすけ、なが四海しかいきよくせよ、ときなるかなうしなうべからず、と。

「天は下々の民を助けるため、その君主を作り、その師を作られた。それはよく上帝を助け、四方を寵愛し安んじさせるためである。罪ある者と無き者について、私がどうしてあえてこの天の御心を踏み越えるようなことをしようか。力が同じであれば徳を比べ、徳が同じであれば義を比べるものだ。受には億万の臣下がいるが、それは億万のばらばらな心である。私には三千の臣下がいるが、それはただ一つの心である。商の罪は満ち溢れ、天命はこれを誅罰しようとしている、もし私が天に従わなければ、その罪は受と同じことになる。私は朝から晩まで敬い恐れつつしみ、父・文考より天命を受け、上帝を祀り、大地の神を祀り、そなたら民衆と共に、天の罰を執り行う。天は民を憐れみ、民の望むところに、天は必ず従われる。そなたらはどうか私一人を助け、永く天下を清くしてほしい。今この時こそ、決して失ってはならない。」

② 泰誓中(たいせいちゅう)

黄河の北に軍を進めた武王が、諸侯の軍勢を巡閲し、天意と民意の一致を説く。

惟戊午、王次于河朔、群后以師畢會。王乃徇師而誓曰、嗚呼、西土有眾、咸聽朕言。我聞吉人為善、惟日不足。凶人為不善、亦惟日不足。今商王受、力行無度、播棄犁老、昵比罪人。淫酗肆虐、臣下化之、朋家作仇、脅權相滅。無辜籲天、穢德彰聞。

戊午ぼごおう河朔かさくやどり、群后ぐんこうを以てことごとかいす。王乃すなわめぐりてちかいて曰わく、嗚呼ああ西土せいど有衆ゆうしゅうよ、みなちんげんけ。われ聞く吉人きつじんぜんを為すは、らず、と。凶人きょうじん不善ふぜんを為すも、亦惟れ日も足らず。今商王受しょうおうじゅ力行りっこう無く、犁老りろう播棄はきし、罪人ざいにん昵比じっぴす。淫酗肆虐いんくしぎゃくにして、臣下之これし、朋家ほうかあだし、けんおびやかしてあいほろぼす。つみ無くしててんさけび、穢徳わいとく彰聞しょうぶんす。

戊午の日、王は黄河の北に陣を敷き、諸侯たちは軍勢を率いて皆集結した。王はそこで軍を巡り、誓って言った。「ああ、西の地の兵たちよ、皆この私の言葉を聴くがよい。私が聞くところでは、善人が善行をなすには、一日でも時が足りぬというものだ。悪人が悪事をなすのも、同じく一日でも時が足りぬというものだ。今、商王の受は、行いに節度がなく、老臣たちを見捨て、罪人たちに親しみ近づいている。酒に溺れ乱れ暴虐を尽くし、臣下もそれに感化され、徒党を組んで敵対し合い、権力を振りかざして互いに滅ぼし合っている。無実の民は天に向かって叫び、その穢れた悪徳は広く知れ渡っている。」

惟天惠民、惟辟奉天。有夏桀弗克若天、流毒下國。天乃佑命成湯、降黜夏命。惟受罪浮于桀。剝喪元良、賊虐諫輔。謂己有天命、謂敬不足行、謂祭無益、謂暴無傷。厥監惟不遠、在彼夏王。

てんたみめぐみ、惟れきみは天をほうず。有夏ゆうかけつ天にしたがうことあたわず、どく下国かこくながす。天乃すなわ成湯せいとう佑命ゆうめいし、めい降黜こうちゅつせしむ。惟れじゅつみけつぐ。元良げんりょう剝喪はくそうし、諫輔かんぽ賊虐ぞくぎゃくす。おのれ天命てんめい有りとい、けいは行うに足らずと謂い、まつりえき無しと謂い、ぼうきず無しと謂う。かがみは惟れ遠からず、夏王かおうに在り。

「天は民を恵み、君主は天を奉じる者だ。夏の桀王は天に従うことができず、その害毒を天下の国々に流した。そこで天は成湯を助け、天命によって夏の命運を降し退けられた。ところが受(紂王)の罪は、あの桀王をも凌ぐほどだ。善良な者を傷つけ滅ぼし、諫言する補佐役を害し虐げている。自分には天命があると言い、敬うことなど実行するに値しないと言い、祭祀には何の益もないと言い、暴虐にも何の害もないと言う。その手本とすべき鑑は遠くにあるのではない、まさにあの夏王(桀)にあるのだ。」

天其以予乂民、朕夢協朕卜、襲于休祥、戎商必克。受有億兆夷人、離心離德。予有亂臣十人、同心同德。雖有周親、不如仁人。天視自我民視、天聽自我民聽。百姓有過、在予一人、今朕必往。我武維揚、侵于之疆、取彼兇殘。我伐用張、于湯有光。勖哉夫子、罔或無畏、寧執非敵。百姓懍懍、若崩厥角。嗚呼、乃一德一心、立定厥功、惟克永世。

てんわれを以てたみおさめしめんとし、ちんゆめは朕がぼくかない、休祥きゅうしょうかさね、しょうちて必ずたん。じゅ億兆おくちょう夷人いじん有るも、こころはなとくを離る。われ乱臣十人らんしんじゅうにん有るも、心を同じくし徳を同じくす。周親しゅうしん有りといえども、仁人じんじんかず。てんるはたみの視るにり、天のくは我が民の聴くに自る。百姓ひゃくせいあやまち有らば、予一人いちにんに在り、今朕ちん必ずかん。がり、これさかいおかして、兇残きょうざんを取らん。我がつこともっび、とうひかり有らん。つとめよや夫子ふうしあるいおそるる無きことく、むしてきあらざるをれ。百姓懍懍りんりんとして、つのくずるるがごとし。嗚呼ああすなわ一徳一心いっとくいっしんにして、こう立定りっていせば、惟れながくせん。

「天は私に民を治めさせようとし、私の夢は私の占いと一致し、吉兆が重なり合っている、商を討てば必ず勝つであろう。受には億兆にも及ぶ民がいるが、その心も徳もばらばらである。私には十人の優れた臣下がいるが、心を一つにし徳を一つにしている。たとえ血縁の近い親族がいようとも、仁ある人物には及ばない。天が見るのは我が民が見ることによってであり、天が聴くのは我が民が聴くことによってである。もし民に過ちがあれば、その責めは私一人にある、今、私は必ず討伐に赴く。我らの武威は大いに上がり、その国境を侵して、あの凶暴で残忍な者を討ち取ろう。我らの討伐は勢いを増し、湯王の事業にも光を添えるであろう。努めよ、兵士たちよ、恐れることのないようにせよ、むしろ我らに敵う者などいないという心構えを持て。民は恐れおののき、まるで角が崩れ落ちるように我らに従うだろう。ああ、心を一つ徳を一つにして、この功業を打ち立てれば、きっと末永く世を治めることができるであろう。」

③ 泰誓下(たいせいげ)

決戦を翌日に控え、武王が全軍に紂王の罪状を重ねて訴え、討伐の決意を新たにする。

時厥明、王乃大巡六師、明誓眾士。王曰、嗚呼、我西土君子。天有顯道、厥類惟彰。今商王受、狎侮五常、荒怠弗敬。自絕于天、結怨于民。斫朝涉之脛、剖賢人之心、作威殺戮、毒痡四海。崇信奸回、放黜師保、屏棄典刑、囚奴正士、郊社不修、宗廟不享、作奇技淫巧以悅婦人。上帝弗順、祝降時喪。

ときあく王乃すなわち大いに六師りくしめぐり、明らかに衆士しゅうしに誓う。王曰わく、嗚呼ああ西土せいど君子くんしよ。てん顕道けんどう有り、るいあきらかなり。今商王受しょうおうじゅ五常ごじょう狎侮こうぶし、荒怠こうたいにしてうやまわず。自ら天に絶(た)ち、うらみを民に結ぶ。朝渉ちょうしょうすねり、賢人けんじんこころき、殺戮さつりくし、どく四海しかいくるしむ。奸回かんかい崇信すうしんし、師保しほ放黜ほうちゅつし、典刑てんけい屏棄へいきし、正士せいし囚奴しゅうどとし、郊社こうしゃおさめず、宗廟そうびょうけず、奇技淫巧きぎいんこうして以て婦人ふじんよろこばす。上帝じょうていしたがわず、つい時喪じそうくだす。

その翌日、王は大いに六軍を巡閲し、はっきりと兵士たちに誓われた。「ああ、我が西方の君子たちよ。天には明らかな道理があり、その種別ははっきりしている。今、商王の受は、五つの常なる道徳を軽んじ侮り、荒み怠って敬うことをしない。自ら天との縁を絶ち、民との間に怨みを結んでいる。冬の朝に川を渡る者の脛を切り落とし、賢者の心臓を切り裂き、威をふるって人を殺戮し、その害毒は天下に及んでいる。よこしまな者を重んじ信頼し、師や保などの重臣を退け追放し、常なる刑法を投げ捨て、正しい士人を囚人・奴隷とし、郊や社の祭祀を修めず、宗廟の祭りも受けず、奇怪な技巧やみだらな細工を作っては女たちを喜ばせている。上帝はこれに従わず、ついにこの時、滅びを降された。」

爾其孜孜、奉予一人、恭行天罰。古人有言曰、撫我則后、虐我則仇。獨夫受洪惟作威、乃汝世仇。樹德務滋、除惡務本、肆予小子誕以爾眾士、殄殲乃仇。爾眾士其尚迪果毅、以登乃辟。功多有厚賞、不迪有顯戮。嗚呼、惟我文考若日月之照臨、光于四方、顯于西土。惟我有周誕受多方。予克受、非予武、惟朕文考無罪。受克予、非朕文考有罪、惟予小子無良。

なんじ孜孜ししとして、予一人いちにんほうじ、うやうやしく天罰てんばつを行え。古人こじんげん有りて曰わく、われずれば則ちきみ、我をしいたげば則ちあだなり、と。独夫受どくふじゅおおいにす、すなわなんじらの世仇せいきゅうなり。とくつるはしげきを務め、あくを除くはもとを務む、つい予小子われしょうしおおいになんじ衆士しゅうしを以て、なんじらのあだ殄殲てんせんせん。爾ら衆士其れねがわくば果毅かきしたがい、以てなんじらのきみのぼらしめよ。功多おおもの厚賞こうしょう有り、したがわざる者は顕戮けんりく有らん。嗚呼ああ文考ぶんこう日月じつげつ照臨しょうりんするがごとく、ひかり四方しほうにあり、西土せいどあきらかなり。惟れ我が有周ゆうしゅうおおいに多方たほうけらる。われじゅつは、われあらず、惟れちん文考罪つみ無ければなり。受予われに克たば、朕が文考罪有るに非ず、惟れ予小子われしょうしりょうならざればなり。

「そなたらよ、努め励んで、私一人を奉じ、慎み敬って天罰を執行せよ。昔の人はこう言った、『私を慈しみ撫でてくれる者は君主であり、私を虐げる者は仇である』と。独りよがりの受(紂王)は大いに威をふるっている、これはそなたらの代々の仇である。徳を打ち立てるには積み重ねることを務め、悪を除くには根本から絶つことを務めるものだ。それゆえ私小子は、そなたら多くの兵士たちと共に、大いにこの仇をことごとく討ち滅ぼそうと思う。そなたら兵士たちよ、どうか果敢さと剛毅さに従って、そなたらの君主(私)を高みに押し上げてほしい。功績多き者には手厚い褒賞があり、命に従わぬ者には明らかな処罰があろう。ああ、我が父・文考(文王)はまるで日月が照り輝くかのように、その光は四方に及び、西の地に明らかに輝いていた。それゆえ我が周国は大いに多くの方々の帰服を受けたのだ。もし私が受に勝てるならば、それは私の武勇によるものではなく、ただ我が父・文考に過ちがなかったからである。もし受が私に勝つようなことがあれば、それは我が父・文考に過ちがあるからではなく、ただこの小子である私が良くないからである。」

④ 牧誓(ぼくせい)

甲子の日の夜明け、牧野の地で武王が全軍に最後の誓いを述べ、決戦に臨む。

時甲子昧爽、王朝至于商郊牧野、乃誓。王左杖黃鉞、右秉白旄以麾、曰、逖矣、西土之人。王曰、嗟、我友邦冢君、御事、司徒司馬司空、亞旅師氏、千夫長百夫長、及庸蜀羌髳微盧彭濮人。稱爾戈、比爾干、立爾矛、予其誓。

とき甲子こうし昧爽まいそうおうあしたしょうこう牧野ぼくやいたり、すなわちかう。王左ひだり黄鉞こうえつき、みぎ白旄はくぼうりて以てさしまねき、曰わく、とおきかな、西土せいどひとよ、と。王曰わく、ああ友邦ゆうほう冢君ちょうくん御事ぎょじ司徒しと司馬しば司空しくう亜旅師氏ありょししん千夫長せんぷちょう百夫長ひゃくふちょうおよようしょくきょうぼうほうぼくひとよ。なんじらのほこげ、爾らのたてならべ、爾らのほこを立て、われれ誓わん、と。

甲子の日の夜明け、王は朝、商の都の郊外・牧野に到着し、そこで誓いを述べられた。王は左手に黄色い斧を杖のように持ち、右手に白い旄を持って指揮を執り、「遠くよりご苦労であった、西の地の者たちよ」と仰せられた。王は言われた。「ああ、我が友好国の君主たち、政務を司る者たち、司徒・司馬・司空、亜旅や師氏、千人隊長・百人隊長、そして庸・蜀・羌・髳・微・盧・彭・濮の国々の人々よ。そなたらの戈を掲げ、盾を並べ、矛を立てよ、私はここに誓いを述べる。」

王曰、古人有言曰、牝雞無晨、牝雞之晨、惟家之索。今商王受、惟婦言是用、昏棄厥肆祀弗答、昏棄厥遺王父母弟不迪、乃惟四方之多罪逋逃、是崇是長、是信是使、是以為大夫卿士。俾暴虐于百姓、以奸宄于商邑。今予發、惟恭行天之罰。

王曰わく、古人こじんげん有りて曰わく、牝鶏ひんけいあしたすること無かれ、牝鶏の晨するは、いえくるなり、と。今商王受しょうおうじゅただげんもちい、くら肆祀ししててこたえず、昏く厥ののこせる王父母弟おうふぼていを棄ててもちいず、すなわち惟れ四方しほう多罪逋逃たざいほとうを、これあがめ是をちょうとし、是をしんじ是を使つかい、是を以て大夫卿士たいふけいしす。百姓ひゃくせい暴虐ぼうぎゃくせしめ、以て商邑しょうゆう奸宄かんきせしむ。今予発われはつ、惟れうやうやしくてんばつを行う、と。

王は言われた。「昔の人はこう言った、『雌鶏は朝を告げてはならない、雌鶏が朝を告げるようになれば、その家は破滅する』と。今、商王の受は、ただ女の言葉ばかりを用い、愚かにも先祖への常の祭祀を打ち捨てて応えず、愚かにも王家の父母兄弟を見捨てて用いず、それどころか四方から逃げてきた多くの罪人たちばかりを、崇め敬い、重用し、信頼して使い、大夫や卿士に取り立てている。彼らに民衆への暴虐を行わせ、商の都で悪事を働かせている。今、この私・発は、ただ慎み敬って天の罰を執行するのみである。」

今日之事、不愆于六步七步、乃止齊焉。勖哉夫子。不愆于四伐五伐六伐七伐、乃止齊焉。勖哉夫子。尚桓桓、如虎如貔、如熊如羆、于商郊。弗迓克奔、以役西土、勖哉夫子。爾所弗勖、其于爾躬有戮。

今日こんにちこと六歩七歩ろくほしちほあやまたず、すなわとどまりそろえよ。つとめよや夫子ふうし四伐五伐六伐七伐しばつごばつろくばつしちばつを愆たず、乃ち止まり斉えよ。勖めよや夫子。ねがわくば桓桓かんかんとして、とらの如くの如く、くまの如くひぐまの如く、しょうこうに。むかえてはしるをざるものは、以て西土せいどえきせしめよ、勖めよや夫子。なんじら勖めざるところは、れ爾らのりく有らん、と。

「今日のこの戦において、六歩七歩を踏み外すことなく、そのたびに止まって隊列を整えよ。努めよ、兵士たちよ。四回五回六回七回の打ち合いを踏み外すことなく、そのたびに止まって隊列を整えよ。努めよ、兵士たちよ。どうか勇猛果敢に、虎のように、貔のように、熊のように、羆のように、この商の郊外で奮い立ってほしい。降伏して逃げてくる者を打ち殺すことなく迎え入れ、彼らを西の地で働かせるがよい。努めよ、兵士たちよ。そなたらがもし努めなければ、そなたら自身の身に処罰が下るであろう。」

⑤ 武成(ぶせい)

殷討伐を成し遂げた武王が、周の廟に凱旋を報告し、新王朝の統治方針を布告する。

既戊午、師逾孟津。癸亥、陳于商郊、俟天休命。甲子昧爽、受率其旅若林、會于牧野。罔有敵于我師、前徒倒戈、攻于後以北、血流漂杵。一戎衣、天下大定。乃反商政、政由舊。釋箕子囚、封比干墓、式商容閭。散鹿臺之財、發鉅橋之粟、大賚于四海、而萬姓悅服。

すで戊午ぼご孟津もうしんゆ。癸亥きがいしょうこうじんし、てん休命きゅうめいつ。甲子こうし昧爽まいそうじゅりょひきいることはやしごとく、牧野ぼくやかいす。てきする有ることく、前徒ぜんとほこさかしまにし、あとめて以てげしめ、流れてきねただよわす。一戎衣いちじゅういして、天下大いに定まる。すなわしょうまつりごとかえし、まつりごときゅうる。箕子きしとらわれをゆるし、比干ひかんはかほうじ、商容しょうようりょしょくす。鹿台ろくだいざいさんじ、鉅橋きょきょうぞくはっし、大いに四海しかいたまわりて、万姓ばんせい悦服えつふくす。

すでに戊午の日、軍は孟津を渡った。癸亥の日、商の郊外に陣を敷き、天の吉き命を待った。甲子の日の夜明け、受(紂王)は林のように大軍を率いて、牧野で対峙した。我が軍に敵う者はなく、敵の前衛の兵はかえって戈を逆さにして味方に向け、我が軍は後方を攻めて敗走させ、血が流れて杵さえも漂うほどであった。一度の武力行使によって、天下は大いに定まった。そこで商の悪政を改め、政治は古の善き道に従うこととした。囚われの身であった箕子を釈放し、比干の墓に土を盛り、商容の住む里門に敬意を表した。鹿台の財貨を分け与え、鉅橋の穀倉を開き、天下あまねく恩恵を施したので、万民は喜んで服した。

列爵惟五、分土惟三。建官惟賢、位事惟能。重民五教、惟食喪祭。惇信明義、崇德報功。垂拱而天下治。

しゃくつらぬることいつつ、かつこと惟れ三つ。かんつるは惟れけんことくらいするは惟れのうたみ五教ごきょうを重んじ、惟れしょくそうさいとす。しんあつくしを明らかにし、とくたっとこうむくゆ。垂拱すいきょうして天下治まる。

爵位は五等に分けて定め、領土は三等に分けて封じた。官職を立てるにはただ賢者を用い、職務に就けるにはただ有能な者を用いた。民に対する五つの教え(父義・母慈・兄友・弟恭・子孝)を重んじ、また食糧・喪礼・祭祀を重んじた。信義を篤くし道義を明らかにし、徳ある者を尊び功ある者に報いた。こうして武王はただ衣の袖を垂れ両手をこまねいているだけで、天下は自ずと治まったのである。