泰誓上・泰誓中・泰誓下・牧誓・武成 ――武王、殷を討つ
周書は全32篇と書経中最大のパートです。今回はその第一弾として、周の武王が孟津に諸侯を集めて殷討伐を誓う「泰誓」三篇、牧野の決戦に臨んで軍を戒める「牧誓」、そして殷討伐の完了を告げる「武成」の5篇――殷周革命の物語をお届けします。
惟れ十有三年、春、大いに孟津に会す。王曰わく、嗟我が友邦の冢君、我が御事庶士に越びて、明らかに誓を聴け。惟れ天地は万物の父母、惟れ人は万物の霊なり。亶に聡明なる者、元后と作り、元后は民の父母と作る。今商王受、上天を敬わず、災を下民に降し、色に沈湎冒し、敢えて暴虐を行う。人を罪するに族を以てし、人を官とするに世を以てす。惟れ宮室台榭陂池侈服、以て爾ら万姓を残害す。忠良を焚炙し、孕婦を刳剔す。
十三年の春、孟津に大いに集会した。武王は仰せられた。「ああ、我が友好国の君主たちよ、そして政務を司る多くの士たちよ、はっきりとこの誓いを聴くがよい。天地は万物の父母であり、人は万物のうちで最も霊妙な存在である。まことに聡明な者が元首の君主となり、その元首は民の父母となる。今、商王の受(紂王)は、天を敬わず、下々の民に災いを降し、女色に溺れ、あえて暴虐の限りを尽くしている。罪人を罰するのに一族もろとも処罰し、人を登用するのに世襲の家柄によっている。宮殿や高台、池、贅沢な衣服にふけり、それによってそなたら万民を害している。忠実で善良な者を焼き殺し、身重の女性の腹を裂いている。」
皇天震怒し、我が文考に命じて、粛んで天威を将わしめしも、大勛未だ集らず。肆に予小子発、爾ら友邦の冢君を以て、政を商に観るに、惟れ受悛心有ること罔く、乃ち夷居し、上帝神祗に事えず、厥の先の宗廟を遺てて祀らず。犠牲粢盛、既に兇盗に于けり。乃ち曰わく、吾民有り命有り、と。其の侮りを懲らすこと罔し。
「偉大な天は震え怒り、我が父・文考(文王)に命じて、慎んで天の威光を執行させようとされたが、その大業はついに成らなかった。それゆえ、この私、小子の発(武王)は、そなたら友好国の君主たちと共に、商の政治のありさまを観察したところ、受(紂王)には悔い改める心が全くなく、傲慢に安住し、上帝や神々にお仕えせず、その先祖の宗廟を打ち捨てて祀ろうともしない。祭祀に供える犠牲や穀物は、すでに悪辣な盗人の手に渡ってしまっている。それでも彼は『私には民があり天命がある』と言い、その侮り高ぶった態度を改めようとしない。」
天下民を佑け、之が君を作り、之が師を作る。惟れ其れ克く上帝を相けて、寵綏を四方にせしむ。罪有り罪無きに、予曷ぞ敢えて厥の志を越ゆること有らんや。力を同じくして徳を度り、徳を同じくして義を度る。受は臣億万有りて、惟れ億万心なり。予は臣三千有りて、惟れ一心なり。商の罪貫盈し、天命之を誅す、予天に順わずんば、厥の罪惟れ鈞し。予小子夙夜祗懼し、命を文考に受け、上帝に類し、冢土に宜し、爾ら有衆を以て、天の罰を厎す。天民を矜れみ、民の欲する所、天必ず之に従う。爾ら尚わくば予一人を弼け、永く四海を清くせよ、時なるかな失うべからず、と。
「天は下々の民を助けるため、その君主を作り、その師を作られた。それはよく上帝を助け、四方を寵愛し安んじさせるためである。罪ある者と無き者について、私がどうしてあえてこの天の御心を踏み越えるようなことをしようか。力が同じであれば徳を比べ、徳が同じであれば義を比べるものだ。受には億万の臣下がいるが、それは億万のばらばらな心である。私には三千の臣下がいるが、それはただ一つの心である。商の罪は満ち溢れ、天命はこれを誅罰しようとしている、もし私が天に従わなければ、その罪は受と同じことになる。私は朝から晩まで敬い恐れつつしみ、父・文考より天命を受け、上帝を祀り、大地の神を祀り、そなたら民衆と共に、天の罰を執り行う。天は民を憐れみ、民の望むところに、天は必ず従われる。そなたらはどうか私一人を助け、永く天下を清くしてほしい。今この時こそ、決して失ってはならない。」
惟れ戊午、王河朔に次り、群后師を以て畢く会す。王乃ち師を徇りて誓て曰わく、嗚呼、西土の有衆よ、咸朕が言を聴け。我聞く吉人善を為すは、惟れ日も足らず、と。凶人不善を為すも、亦惟れ日も足らず。今商王受、力行度無く、犁老を播棄し、罪人に昵比す。淫酗肆虐にして、臣下之に化し、朋家仇を作し、権を脅して相滅す。辜無くして天に籲び、穢徳彰聞す。
戊午の日、王は黄河の北に陣を敷き、諸侯たちは軍勢を率いて皆集結した。王はそこで軍を巡り、誓って言った。「ああ、西の地の兵たちよ、皆この私の言葉を聴くがよい。私が聞くところでは、善人が善行をなすには、一日でも時が足りぬというものだ。悪人が悪事をなすのも、同じく一日でも時が足りぬというものだ。今、商王の受は、行いに節度がなく、老臣たちを見捨て、罪人たちに親しみ近づいている。酒に溺れ乱れ暴虐を尽くし、臣下もそれに感化され、徒党を組んで敵対し合い、権力を振りかざして互いに滅ぼし合っている。無実の民は天に向かって叫び、その穢れた悪徳は広く知れ渡っている。」
惟れ天は民を恵み、惟れ辟は天を奉ず。有夏の桀天に若うこと克わず、毒を下国に流す。天乃ち成湯を佑命し、夏の命を降黜せしむ。惟れ受の罪は桀に浮ぐ。元良を剝喪し、諫輔を賊虐す。己に天命有りと謂い、敬は行うに足らずと謂い、祭は益無しと謂い、暴は傷無しと謂う。厥の監は惟れ遠からず、彼の夏王に在り。
「天は民を恵み、君主は天を奉じる者だ。夏の桀王は天に従うことができず、その害毒を天下の国々に流した。そこで天は成湯を助け、天命によって夏の命運を降し退けられた。ところが受(紂王)の罪は、あの桀王をも凌ぐほどだ。善良な者を傷つけ滅ぼし、諫言する補佐役を害し虐げている。自分には天命があると言い、敬うことなど実行するに値しないと言い、祭祀には何の益もないと言い、暴虐にも何の害もないと言う。その手本とすべき鑑は遠くにあるのではない、まさにあの夏王(桀)にあるのだ。」
天其れ予を以て民を乂めしめんとし、朕が夢は朕が卜に協い、休祥を襲ね、商を戎ちて必ず克たん。受に億兆の夷人有るも、心を離れ徳を離る。予に乱臣十人有るも、心を同じくし徳を同じくす。周親有りと雖も、仁人に如かず。天の視るは我が民の視るに自り、天の聴くは我が民の聴くに自る。百姓に過ち有らば、予一人に在り、今朕必ず往かん。我が武維れ揚がり、之が疆を侵して、彼の兇残を取らん。我が伐つこと用て張び、湯に光有らん。勖めよや夫子、或は畏るる無きこと罔く、寧ろ敵に非ざるを執れ。百姓懍懍として、厥の角崩るるが若し。嗚呼、乃ち一徳一心にして、厥の功を立定せば、惟れ克く世を永くせん。
「天は私に民を治めさせようとし、私の夢は私の占いと一致し、吉兆が重なり合っている、商を討てば必ず勝つであろう。受には億兆にも及ぶ民がいるが、その心も徳もばらばらである。私には十人の優れた臣下がいるが、心を一つにし徳を一つにしている。たとえ血縁の近い親族がいようとも、仁ある人物には及ばない。天が見るのは我が民が見ることによってであり、天が聴くのは我が民が聴くことによってである。もし民に過ちがあれば、その責めは私一人にある、今、私は必ず討伐に赴く。我らの武威は大いに上がり、その国境を侵して、あの凶暴で残忍な者を討ち取ろう。我らの討伐は勢いを増し、湯王の事業にも光を添えるであろう。努めよ、兵士たちよ、恐れることのないようにせよ、むしろ我らに敵う者などいないという心構えを持て。民は恐れおののき、まるで角が崩れ落ちるように我らに従うだろう。ああ、心を一つ徳を一つにして、この功業を打ち立てれば、きっと末永く世を治めることができるであろう。」
時に厥の明る日、王乃ち大いに六師を巡り、明らかに衆士に誓う。王曰わく、嗚呼、我が西土の君子よ。天に顕道有り、厥の類惟れ彰らかなり。今商王受、五常を狎侮し、荒怠にして敬わず。自ら天に絶(た)ち、怨みを民に結ぶ。朝渉の脛を斫り、賢人の心を剖き、威を作し殺戮し、毒を四海に痡しむ。奸回を崇信し、師保を放黜し、典刑を屏棄し、正士を囚奴とし、郊社修めず、宗廟享けず、奇技淫巧を作して以て婦人を悦ばす。上帝順わず、祝に時喪を降す。
その翌日、王は大いに六軍を巡閲し、はっきりと兵士たちに誓われた。「ああ、我が西方の君子たちよ。天には明らかな道理があり、その種別ははっきりしている。今、商王の受は、五つの常なる道徳を軽んじ侮り、荒み怠って敬うことをしない。自ら天との縁を絶ち、民との間に怨みを結んでいる。冬の朝に川を渡る者の脛を切り落とし、賢者の心臓を切り裂き、威をふるって人を殺戮し、その害毒は天下に及んでいる。よこしまな者を重んじ信頼し、師や保などの重臣を退け追放し、常なる刑法を投げ捨て、正しい士人を囚人・奴隷とし、郊や社の祭祀を修めず、宗廟の祭りも受けず、奇怪な技巧やみだらな細工を作っては女たちを喜ばせている。上帝はこれに従わず、ついにこの時、滅びを降された。」
爾ら其れ孜孜として、予一人を奉じ、恭しく天罰を行え。古人言有りて曰わく、我を撫ずれば則ち后、我を虐げば則ち仇なり、と。独夫受洪いに威を作す、乃ち汝らの世仇なり。徳を樹つるは滋きを務め、悪を除くは本を務む、肆に予小子誕いに爾ら衆士を以て、乃らの仇を殄殲せん。爾ら衆士其れ尚わくば果毅に迪い、以て乃らの辟を登らしめよ。功多き者は厚賞有り、迪わざる者は顕戮有らん。嗚呼、惟れ我が文考は日月の照臨するが若く、光四方にあり、西土に顕らかなり。惟れ我が有周誕いに多方に受けらる。予受に克つは、予の武に非ず、惟れ朕が文考罪無ければなり。受予に克たば、朕が文考罪有るに非ず、惟れ予小子良ならざればなり。
「そなたらよ、努め励んで、私一人を奉じ、慎み敬って天罰を執行せよ。昔の人はこう言った、『私を慈しみ撫でてくれる者は君主であり、私を虐げる者は仇である』と。独りよがりの受(紂王)は大いに威をふるっている、これはそなたらの代々の仇である。徳を打ち立てるには積み重ねることを務め、悪を除くには根本から絶つことを務めるものだ。それゆえ私小子は、そなたら多くの兵士たちと共に、大いにこの仇をことごとく討ち滅ぼそうと思う。そなたら兵士たちよ、どうか果敢さと剛毅さに従って、そなたらの君主(私)を高みに押し上げてほしい。功績多き者には手厚い褒賞があり、命に従わぬ者には明らかな処罰があろう。ああ、我が父・文考(文王)はまるで日月が照り輝くかのように、その光は四方に及び、西の地に明らかに輝いていた。それゆえ我が周国は大いに多くの方々の帰服を受けたのだ。もし私が受に勝てるならば、それは私の武勇によるものではなく、ただ我が父・文考に過ちがなかったからである。もし受が私に勝つようなことがあれば、それは我が父・文考に過ちがあるからではなく、ただこの小子である私が良くないからである。」
時に甲子昧爽、王朝に商の郊牧野に至り、乃ち誓う。王左に黄鉞を杖き、右に白旄を秉りて以て麾き、曰わく、逖きかな、西土の人よ、と。王曰わく、嗟、我が友邦の冢君、御事、司徒・司馬・司空、亜旅師氏、千夫長・百夫長、及び庸・蜀・羌・髳・微・盧・彭・濮の人よ。爾らの戈を称げ、爾らの干を比べ、爾らの矛を立て、予其れ誓わん、と。
甲子の日の夜明け、王は朝、商の都の郊外・牧野に到着し、そこで誓いを述べられた。王は左手に黄色い斧を杖のように持ち、右手に白い旄を持って指揮を執り、「遠くよりご苦労であった、西の地の者たちよ」と仰せられた。王は言われた。「ああ、我が友好国の君主たち、政務を司る者たち、司徒・司馬・司空、亜旅や師氏、千人隊長・百人隊長、そして庸・蜀・羌・髳・微・盧・彭・濮の国々の人々よ。そなたらの戈を掲げ、盾を並べ、矛を立てよ、私はここに誓いを述べる。」
王曰わく、古人言有りて曰わく、牝鶏晨すること無かれ、牝鶏の晨するは、惟れ家の索くるなり、と。今商王受、惟婦の言是れ用い、昏く厥の肆祀を棄てて答えず、昏く厥の遺せる王父母弟を棄てて迪いず、乃ち惟れ四方の多罪逋逃を、是を崇め是を長とし、是を信じ是を使い、是を以て大夫卿士と為す。百姓に暴虐せしめ、以て商邑に奸宄せしむ。今予発、惟れ恭しく天の罰を行う、と。
王は言われた。「昔の人はこう言った、『雌鶏は朝を告げてはならない、雌鶏が朝を告げるようになれば、その家は破滅する』と。今、商王の受は、ただ女の言葉ばかりを用い、愚かにも先祖への常の祭祀を打ち捨てて応えず、愚かにも王家の父母兄弟を見捨てて用いず、それどころか四方から逃げてきた多くの罪人たちばかりを、崇め敬い、重用し、信頼して使い、大夫や卿士に取り立てている。彼らに民衆への暴虐を行わせ、商の都で悪事を働かせている。今、この私・発は、ただ慎み敬って天の罰を執行するのみである。」
今日の事、六歩七歩を愆たず、乃ち止まり斉えよ。勖めよや夫子。四伐五伐六伐七伐を愆たず、乃ち止まり斉えよ。勖めよや夫子。尚わくば桓桓として、虎の如く貔の如く、熊の如く羆の如く、商の郊に。迓えて奔るを克ざる者は、以て西土に役せしめよ、勖めよや夫子。爾ら勖めざる所は、其れ爾らの躬に戮有らん、と。
「今日のこの戦において、六歩七歩を踏み外すことなく、そのたびに止まって隊列を整えよ。努めよ、兵士たちよ。四回五回六回七回の打ち合いを踏み外すことなく、そのたびに止まって隊列を整えよ。努めよ、兵士たちよ。どうか勇猛果敢に、虎のように、貔のように、熊のように、羆のように、この商の郊外で奮い立ってほしい。降伏して逃げてくる者を打ち殺すことなく迎え入れ、彼らを西の地で働かせるがよい。努めよ、兵士たちよ。そなたらがもし努めなければ、そなたら自身の身に処罰が下るであろう。」
既に戊午、師孟津を逾ゆ。癸亥、商の郊に陳し、天の休命を俟つ。甲子昧爽、受其の旅を率いること林の若く、牧野に会す。我が師に敵する有ること罔く、前徒戈を倒にし、後を攻めて以て北げしめ、血流れて杵を漂わす。一戎衣して、天下大いに定まる。乃ち商の政を反し、政は旧に由る。箕子の囚われを釈し、比干の墓を封じ、商容の閭を式す。鹿台の財を散じ、鉅橋の粟を発し、大いに四海に賚りて、万姓悦服す。
すでに戊午の日、軍は孟津を渡った。癸亥の日、商の郊外に陣を敷き、天の吉き命を待った。甲子の日の夜明け、受(紂王)は林のように大軍を率いて、牧野で対峙した。我が軍に敵う者はなく、敵の前衛の兵はかえって戈を逆さにして味方に向け、我が軍は後方を攻めて敗走させ、血が流れて杵さえも漂うほどであった。一度の武力行使によって、天下は大いに定まった。そこで商の悪政を改め、政治は古の善き道に従うこととした。囚われの身であった箕子を釈放し、比干の墓に土を盛り、商容の住む里門に敬意を表した。鹿台の財貨を分け与え、鉅橋の穀倉を開き、天下あまねく恩恵を施したので、万民は喜んで服した。
爵を列ぬること惟れ五つ、土を分かつこと惟れ三つ。官を建つるは惟れ賢、事に位するは惟れ能。民の五教を重んじ、惟れ食・喪・祭とす。信を惇くし義を明らかにし、徳を崇び功に報ゆ。垂拱して天下治まる。
爵位は五等に分けて定め、領土は三等に分けて封じた。官職を立てるにはただ賢者を用い、職務に就けるにはただ有能な者を用いた。民に対する五つの教え(父義・母慈・兄友・弟恭・子孝)を重んじ、また食糧・喪礼・祭祀を重んじた。信義を篤くし道義を明らかにし、徳ある者を尊び功ある者に報いた。こうして武王はただ衣の袖を垂れ両手をこまねいているだけで、天下は自ずと治まったのである。