書経 商書(五)

盤庚上・盤庚中・盤庚下

【重要】この読本の性格について、必ずお読みください

盤庚三篇は、唐の韓愈が「周の誥、殷の盤(盤庚)、佶屈聱牙(読みにくく難解)」と評したほど、書経の中でも群を抜いて難解な篇です。古語・難読字が極めて多く、現代の注釈書でも解釈が分かれる箇所が少なくありません。

今回は、各篇の冒頭部分を中心に、原文が明確に確認できた範囲で訓読・現代語訳を作成しました。三篇とも実際にはこれより長く(それぞれ本読本の2〜3倍程度の分量があります)、ここに収めたのは全文ではなく主要な抜粋であることをご了承ください。他の篇(虞書・夏書・商書の他の篇)とは性格が異なりますので、その点だけご留意いただければと思います。全文化をご希望の場合は、改めて時間をかけて取り組みます。

① 盤庚上(ばんこうじょう)

盤庚が都を殷の地に遷そうとするが民は喜ばず、王庭に人々を集めて説得を試みる。

盤庚遷于殷、民不適有居。率吁眾戚出矢言。曰、我王來、既爰宅于茲、重我民、無盡劉。不能胥匡以生、卜稽曰其如台。先王有服、恪謹天命、茲猶不常寧、不常厥邑、于今五邦。今不承于古、罔知天之斷命、矧曰其克從先王之烈。若顛木之有由蘗、天其永我命于茲新邑、紹復先王之大業、厎綏四方。

盤庚ばんこういんうつらんとするに、たみきょくをよろこばず。衆戚しゅうせきひきびて矢言しげんを出だす。曰わく、おう来たりて、すでこここれる、我がたみおもんじ、ことごところすこと無からしめんとす。胥匡あいきょうしてもって生くるあたわず、卜稽ぼくけいに曰わくわれ如何いかんせん、と。先王せんおうふく有り、恪謹かくきんして天命てんめいにす、これつねやすんぜず、ゆうを常にせず、今にいて五邦ごほうなり。いまいにしえけずんば、てんめいつを知ることし、いわんや其れく先王のれつに従うと曰わんや。顛木てんぼく由蘗ゆうげつ有るがごとく、てん其れ我がめい新邑しんゆうながくし、先王の大業たいぎょう紹復しょうふくし、四方しほう厎綏ていすいせん、と。

盤庚が殷の地へ遷都しようとしたが、民はその新しい地に移り住むことを喜ばなかった。そこで盤庚は、王の親族たちを率いて呼び集め、真剣な言葉を発した。「我らが王がここにおいでになり、すでにこの地に住まわれることとなったのは、我ら民を大切に思い、皆殺しにされることのないようにするためである。互いに助け合って生きていくことができぬ状態だったので、占いにも『これをどうしたものか』と出た。先王方には成すべき務めがあり、天命を慎み謹んでこられた。それでも常に安らかというわけにはいかず、都邑を一所に定めることなく、今に至るまで五度の遷都を重ねてきた。今、古のやり方を受け継がなければ、天が我らの命運をどう定めるかを知ることはできない、まして先王方の偉業に従うことなどできようか。倒れた木に若芽が生えるように、天はきっと我らの命運をこの新しい邑で永らえさせ、先王方の大業を受け継ぎ、四方を安んじてくださるであろう。」

盤庚斅于民、由乃在位、以常舊服、正法度。曰、無或敢伏小人之攸箴。王命眾、悉至于庭。王若曰、格汝眾。予告汝訓、汝猷黜乃心、無傲從康。古我先王、亦惟圖任舊人共政。王播告之、修不匿厥指、王用丕欽、罔有逸言、民用丕變。今汝聒聒、起信險膚、予弗知乃所訟。

盤庚民たみおしうるに、なんじくらいり、以て旧服きゅうふくつねにし、法度ほうどたださしむ。曰わく、あるいえて小人しょうじんいさむるところふくすること無かれ、と。王衆しゅうに命じ、ことごとていに至らしむ。王若かく曰わく、なんじしゅういたる。われなんじおしえを告げん、汝猷なんじゆうなんじこころしりぞけ、おごりてやすきに従うこと無かれ。いにしえ我が先王せんおうも、またただ旧人きゅうじん図任とにんしてまつりごとともにせり。王之これ播告はこくするに、おさめてむねかくさず、王用もっおおいにつつしめり、逸言いつげん有ることく、民用もっおおいにへんぜり。今汝なんじ聒聒かつかつとして、こして険膚けんぷしんず、われなんじうったうるところを知らず、と。

盤庚は民を教え諭すにあたり、位にある臣下たちを通じて、古くからの職務を常のこととして守らせ、法度を正させた。「決して小人が諫めの言葉を隠すようなことがあってはならぬ」と言った。王は民衆に命じ、皆を王庭に集めさせた。王はこう仰せられた。「そなたら民衆よ、ここに参るがよい。私はそなたらに教え諭そう。そなたらはその我意を捨て去り、傲慢に安逸に流れることのないように。昔、我が先王方も、古くからの臣下たちを重んじ用いて、共に政治を行っておられた。先王が政令を布告される際には、その真意を隠すことなく整え、それゆえ王はいよいよ謹み深くなられ、いい加減な言葉もなく、民もそれゆえ大いに善き方向へ変わっていったのだ。今そなたらはやかましく騒ぎ立て、根拠のない浮ついた言葉を信じている、私はそなたらが何を訴えているのか理解できない。」

② 盤庚中(ばんこうちゅう)

遷都を実行する段階で、なお従わない民に対し、盤庚が改めて事の次第と自らの真意を説く。

盤庚作、惟涉河以民遷、乃話民之弗率、誕告用亶。其有眾咸造、勿褻在王庭。盤庚乃登進厥民。曰、明聽朕言、無荒失朕命。嗚呼、古我前後、罔不惟民之承保、后胥慼、鮮以不浮于天時。殷降大虐、先王不懷、厥攸作、視民利用遷。汝曷弗念我古后之聞、承汝俾汝、惟喜康共、非汝有咎、比于罰。予若籲懷茲新邑、亦惟汝故、以丕從厥志。

盤庚ばんこうおこりて、わたりて以てたみうつすに、すなわたみしたがわざるをかたり、おおいに告げてまこともってす。しゅう有りてみないたるも、王庭おうているることかれ。盤庚乃すなわのぼりてたみすすむ。曰わく、あきらかにちんげんき、朕がめい荒失こうしつすること無かれ。嗚呼ああいにしえ前后ぜんこうたみ承保しょうほするをおもわざるく、きみあいうれう、すくなくして天時てんじうかばず。いん大虐たいぎゃくくだせば、先王せんおうなつかず、ところたみて用てうつせり。なんじなんぞ我がいにしえきみきこえをおもわざる。なんじけ汝をむるは、惟れよろこ康共こうきょうせんとなり、汝にとが有るにあらず、ばつするにあらず。われもし新邑しんゆう籲懐ゆうかいするも、また惟れなんじゆえ、以ておおいにこころざしに従わんとなり。

盤庚は立ち上がり、黄河を渡って民を遷そうとするにあたり、民が従おうとしないことを語り、大いに告げて誠実さを尽くした。民が皆集まっても、王庭で軽々しい振る舞いをすることのないようにと戒めた。盤庚は壇に登って民を進み出させた。「はっきりと私の言葉を聴き、私の命令をおろそかにして失うことのないように。ああ、昔から我が歴代の君主は、民を保護し受け継ぐことを思わぬことはなく、君主もまた民と共に心を痛めてきた、天の時にかなわぬことは稀であった。殷に大きな災いが降されたときは、先王方はそこに安住されず、都を遷すにあたっては、常に民の利益を見てそうされたのだ。そなたらはなぜ、我が昔の君主方の評判を思い起こそうとしないのか。そなたらを受け入れそなたらを働かせるのは、ただ共に喜び安らかであろうとするためであって、そなたらに咎があるからではなく、罰を与えようとしているのでもない。私がもしこの新しい邑への遷都を切に願うのだとしても、それもまたそなたらのためを思ってのこと、そなたらの本当の志に大いに従おうとしているのだ。」

③ 盤庚下(ばんこうげ)

遷都を終えた盤庚が、新しい邑で民を安んじ、あらためて自らの真心を告げる。

盤庚既遷、奠厥攸居、乃正厥位、綏爰有眾。曰、無戲怠、懋建大命。今予其敷心腹腎腸、歷告爾百姓于朕志。罔罪爾眾、爾無共怒、協比讒言予一人。古我先王將多于前功、適于山。用降我凶、德嘉績于朕邦。今我民用蕩析離居、罔有定極、爾謂朕曷震動萬民以遷。肆上帝將復我高祖之德、亂越我家。朕及篤敬、恭承民命、用永地于新邑。肆予沖人、非廢厥謀、吊由靈各、非敢違卜、用宏茲賁。

盤庚既すでうつりて、きょところさだめ、すなわち厥のくらいを正し、ここしゅうやすんず。曰わく、戯怠ぎたいすること無く、つとめて大命たいめいてよ。今予われ其れ心腹腎腸しんぷくじんちょうべ、なんじ百姓ひゃくせいちんこころざし歴告れきこくす。爾らしゅうつみすることく、爾共ともいかりて予一人いちにん協比讒言きょうひざんげんすること無かれ。いにしえ我が先王せんおうまさ前功ぜんこうまさらんとして、やまけり。もって我がきょうくだし、とくちんくに嘉績かせきせり。今我がたみもっ蕩析離居とうせきりきょし、定極ていきょく有ることく、なんじちんなん万民ばんみん震動しんどうして以てうつすとうか。すなわ上帝じょうていまさに我が高祖こうそとくかえさんとして、我がいえ乱越らんえつせり。ちん篤敬とくけいに及び、うやうやしく民命みんめいけ、用て新邑しんゆう永地えいちせしむ。すなわ予沖人ちゅうじんはかりごとはいするにあらず、てきれいいたるにる、えてぼくたがうに非ず、用てふんひろくせんとなり。

盤庚はすでに遷都を終え、住まうべき場所を定め、その位を正し、ここに民衆を安んじた。「怠け戯れることなく、努めて大いなる天命を打ち立てよ。今、私は心の底から真心を尽くし、そなたら民衆に私の志をつぶさに告げよう。そなたら民衆を咎めることはしない、そなたらが共に怒って、私一人を悪く言い立てることのないように。昔、我が先王方は前代の功績を上回ろうとして、山地へと都を遷された。それによって我らへの災いを取り除き、その徳は我が国に良き実りをもたらした。今、我が民はそれによって離散し住まいを失い、定まる場所がなかった。そなたらは、私がなぜ万民を揺り動かしてまで遷都しようとするのかと言うのだろう。それは、上帝がまさに我が高祖の徳を回復させようとして、我が家を試練にかけておられるからだ。私はいよいよ篤く敬いの心を持ち、恭しく民の命運を受け継ぎ、それによってこの新しい邑に末永く住まわせようとしているのだ。それゆえ、この若輩の私は、先の計画を放棄したわけではない。この試練は神霊の導きによるものであり、あえて占いに背いているわけでもない、これによってこの大業をいっそう広げようとしているのだ。」