盤庚上・盤庚中・盤庚下
盤庚三篇は、唐の韓愈が「周の誥、殷の盤(盤庚)、佶屈聱牙(読みにくく難解)」と評したほど、書経の中でも群を抜いて難解な篇です。古語・難読字が極めて多く、現代の注釈書でも解釈が分かれる箇所が少なくありません。
今回は、各篇の冒頭部分を中心に、原文が明確に確認できた範囲で訓読・現代語訳を作成しました。三篇とも実際にはこれより長く(それぞれ本読本の2〜3倍程度の分量があります)、ここに収めたのは全文ではなく主要な抜粋であることをご了承ください。他の篇(虞書・夏書・商書の他の篇)とは性格が異なりますので、その点だけご留意いただければと思います。全文化をご希望の場合は、改めて時間をかけて取り組みます。
盤庚殷に遷らんとするに、民居に適くを不ばず。衆戚を率い吁びて矢言を出だす。曰わく、我が王来たりて、既に爰に茲に宅る、我が民を重んじ、尽く劉すこと無からしめんとす。胥匡して以て生くる能わず、卜稽に曰わく其れ台を如何せん、と。先王服有り、恪謹して天命にす、茲猶お常に寧んぜず、厥の邑を常にせず、今に於いて五邦なり。今古に承けずんば、天の命を断つを知ること罔し、矧や其れ克く先王の烈に従うと曰わんや。顛木の由蘗有るが若く、天其れ我が命を茲の新邑に永くし、先王の大業を紹復し、四方を厎綏せん、と。
盤庚が殷の地へ遷都しようとしたが、民はその新しい地に移り住むことを喜ばなかった。そこで盤庚は、王の親族たちを率いて呼び集め、真剣な言葉を発した。「我らが王がここにおいでになり、すでにこの地に住まわれることとなったのは、我ら民を大切に思い、皆殺しにされることのないようにするためである。互いに助け合って生きていくことができぬ状態だったので、占いにも『これをどうしたものか』と出た。先王方には成すべき務めがあり、天命を慎み謹んでこられた。それでも常に安らかというわけにはいかず、都邑を一所に定めることなく、今に至るまで五度の遷都を重ねてきた。今、古のやり方を受け継がなければ、天が我らの命運をどう定めるかを知ることはできない、まして先王方の偉業に従うことなどできようか。倒れた木に若芽が生えるように、天はきっと我らの命運をこの新しい邑で永らえさせ、先王方の大業を受け継ぎ、四方を安んじてくださるであろう。」
盤庚民に斅うるに、乃位に在る由り、以て旧服を常にし、法度を正さしむ。曰わく、或は敢えて小人の箴むる攸を伏すること無かれ、と。王衆に命じ、悉く庭に至らしむ。王若曰わく、汝ら衆に格る。予汝に訓えを告げん、汝猷乃の心を黜け、傲りて康きに従うこと無かれ。古我が先王も、亦惟旧人を図任して政を共にせり。王之を播告するに、修めて厥の指を匿さず、王用て丕いに欽めり、逸言有ること罔く、民用て丕いに変ぜり。今汝聒聒として、起こして険膚を信ず、予乃の訟うる所を知らず、と。
盤庚は民を教え諭すにあたり、位にある臣下たちを通じて、古くからの職務を常のこととして守らせ、法度を正させた。「決して小人が諫めの言葉を隠すようなことがあってはならぬ」と言った。王は民衆に命じ、皆を王庭に集めさせた。王はこう仰せられた。「そなたら民衆よ、ここに参るがよい。私はそなたらに教え諭そう。そなたらはその我意を捨て去り、傲慢に安逸に流れることのないように。昔、我が先王方も、古くからの臣下たちを重んじ用いて、共に政治を行っておられた。先王が政令を布告される際には、その真意を隠すことなく整え、それゆえ王はいよいよ謹み深くなられ、いい加減な言葉もなく、民もそれゆえ大いに善き方向へ変わっていったのだ。今そなたらはやかましく騒ぎ立て、根拠のない浮ついた言葉を信じている、私はそなたらが何を訴えているのか理解できない。」
盤庚作りて、惟れ河を渉りて以て民を遷すに、乃ち民の率わざるを話り、誕いに告げて亶を用てす。其の衆有りて咸造るも、王庭に褻るること勿かれ。盤庚乃ち登りて厥の民を進む。曰わく、明らかに朕が言を聴き、朕が命を荒失すること無かれ。嗚呼、古我が前后、民を承保するを惟わざる罔く、后も胥慼う、鮮くして天時に浮ばず。殷大虐を降せば、先王懐かず、厥の作す攸、民の利を視て用て遷せり。汝曷ぞ我が古の后の聞えを念わざる。汝を承け汝を俾むるは、惟れ喜び康共せんとなり、汝に咎有るに非ず、罰に比するにあらず。予若茲の新邑を籲懐するも、亦惟れ汝の故、以て丕いに厥の志に従わんとなり。
盤庚は立ち上がり、黄河を渡って民を遷そうとするにあたり、民が従おうとしないことを語り、大いに告げて誠実さを尽くした。民が皆集まっても、王庭で軽々しい振る舞いをすることのないようにと戒めた。盤庚は壇に登って民を進み出させた。「はっきりと私の言葉を聴き、私の命令をおろそかにして失うことのないように。ああ、昔から我が歴代の君主は、民を保護し受け継ぐことを思わぬことはなく、君主もまた民と共に心を痛めてきた、天の時にかなわぬことは稀であった。殷に大きな災いが降されたときは、先王方はそこに安住されず、都を遷すにあたっては、常に民の利益を見てそうされたのだ。そなたらはなぜ、我が昔の君主方の評判を思い起こそうとしないのか。そなたらを受け入れそなたらを働かせるのは、ただ共に喜び安らかであろうとするためであって、そなたらに咎があるからではなく、罰を与えようとしているのでもない。私がもしこの新しい邑への遷都を切に願うのだとしても、それもまたそなたらのためを思ってのこと、そなたらの本当の志に大いに従おうとしているのだ。」
盤庚既に遷りて、厥の居る攸を奠め、乃ち厥の位を正し、爰に衆を綏んず。曰わく、戯怠すること無く、懋めて大命を建てよ。今予其れ心腹腎腸を敷べ、爾ら百姓に朕が志を歴告す。爾ら衆を罪すること罔く、爾共に怒りて予一人を協比讒言すること無かれ。古我が先王将に前功に多らんとして、山に適けり。用て我が凶を降し、徳は朕が邦に嘉績せり。今我が民用て蕩析離居し、定極有ること罔く、爾朕曷ぞ万民を震動して以て遷すと謂うか。肆ち上帝将に我が高祖の徳を復さんとして、我が家を乱越せり。朕篤敬に及び、恭しく民命を承け、用て新邑に永地せしむ。肆ち予沖人、厥の謀を廃するに非ず、吊は霊の各るに由る、敢えて卜に違うに非ず、用て茲の賁を宏くせんとなり。
盤庚はすでに遷都を終え、住まうべき場所を定め、その位を正し、ここに民衆を安んじた。「怠け戯れることなく、努めて大いなる天命を打ち立てよ。今、私は心の底から真心を尽くし、そなたら民衆に私の志をつぶさに告げよう。そなたら民衆を咎めることはしない、そなたらが共に怒って、私一人を悪く言い立てることのないように。昔、我が先王方は前代の功績を上回ろうとして、山地へと都を遷された。それによって我らへの災いを取り除き、その徳は我が国に良き実りをもたらした。今、我が民はそれによって離散し住まいを失い、定まる場所がなかった。そなたらは、私がなぜ万民を揺り動かしてまで遷都しようとするのかと言うのだろう。それは、上帝がまさに我が高祖の徳を回復させようとして、我が家を試練にかけておられるからだ。私はいよいよ篤く敬いの心を持ち、恭しく民の命運を受け継ぎ、それによってこの新しい邑に末永く住まわせようとしているのだ。それゆえ、この若輩の私は、先の計画を放棄したわけではない。この試練は神霊の導きによるものであり、あえて占いに背いているわけでもない、これによってこの大業をいっそう広げようとしているのだ。」