湯誓・仲虺之誥・湯誥 ――夏を討ち商(殷)を建てる
商書17篇のうち、湯王が夏の桀王を討って商(殷)を建てるまでの3篇(湯誓・仲虺之誥・湯誥)を収めます。残り14篇(伊訓・太甲上中下・咸有一德・盤庚上中下・説命上中下・高宗肜日・西伯戡黎・微子)は続編として作成します。
伊尹湯を相けて桀を伐ち、陑より升り、遂に桀と鳴条の野に戦う。湯誓を作る。
伊尹は湯王を補佐して夏の桀王を討ち、陑の地から進軍し、ついに桀と鳴条の野で戦った。この経緯を「湯誓」として記す。
王曰わく、爾ら衆庶に格る、悉く朕が言を聴け。台小子、敢えて乱を称うるに非ず。夏多罪有り、天命之を殛す。今爾ら衆、汝曰わく、我が后我が衆を恤えず、我が穡事を舎てて夏を割正す、と。予惟汝ら衆の言を聞けり。夏氏罪有り、予は上帝を畏れ、敢えて正せずんばあらず。今汝其れ曰わく、夏の罪は其れ台に如何、と。夏王率ね衆力を遏め、率ね夏邑を割き、衆率ね怠りて協せず。曰わく、時日曷か喪びん、予汝に及びて皆亡びん、と。夏の徳茲の若し、今朕必ず往かん、と。
王(湯)は仰せられた。「そなたら民衆よ、皆この私の言葉を聞け。私は決して勝手に乱を起こそうとしているのではない。夏の桀王には多くの罪があり、天命によってこれを罰するのだ。今そなたらの中には『我らの君主は我々を思いやらず、農作業を放り出させて夏を討たせようとしている』と言う者がいると聞く。私はそなたらのその言葉を確かに聞いた。しかし夏には罪があり、私は上帝を畏れ、正さないわけにはいかないのだ。今そなたらは『夏の罪が我らにどう関係するのか』と言うだろう。夏王はことごとく民の力を抑えつけ、ことごとく夏の邑々を損ない、民はみな怠けて協力しなくなった。民は言う、『この太陽(桀王)はいつ滅びるのか、我らはお前と共に滅んでもよい』と。夏の徳はこのように地に堕ちている。今、私は必ず討ちに行かねばならぬ。」
爾ら尚わくば予一人を輔け、天の罰を致せ、予其れ大いに汝に賚せん。爾ら信ぜざること無かれ、朕言を食まず。爾ら誓言に従わずんば、予則ち汝を孥戮し、赦す攸有ること罔けん、と。
そなたらよ、どうか私一人を助け、天の罰を成し遂げてほしい。そうすれば私は大いにそなたらに褒美を与えよう。私を信じぬことのないように、私は決して約束を違えぬ。もしそなたらがこの誓いの言葉に従わなければ、私はそなたらを妻子ともども処罰し、決して赦しはしない。
成湯桀を南巣に放ち、惟慚徳有りて曰わく、予来世以て台を口実と為さんことを恐る、と。仲虺乃ち誥を作る。
成湯は桀を南巣の地に追放したが、心に恥じるところがあり、「後世の人々が私を非難の口実にするのではないかと恐れる」と仰せられた。そこで仲虺が戒めの言葉を作った。
曰わく、嗚呼、惟れ天民を生むに欲有り、主無ければ乃ち乱る。惟れ天聡明を生みて時に乂めしむ。夏徳に昏く、民塗炭に墜つ。天乃ち王に勇智を錫い、万邦を表正し、禹の旧服を纘がしむ。茲に厥の典に率い、天命に奉若す。夏王罪有り、上天を矯誣し、以て命を下に布く。帝用て臧しとせず、商を式いて命を受けしめ、用て厥の師を爽らかにす。
仲虺は言った。「ああ、天が民を生む際、欲望をも与えられた。それゆえ主がいなければ世は乱れる。天はまた聡明な人物を生み、これに世を治めさせる。夏の桀王は徳に暗く、民は苦しみの底に落ちた。そこで天はあなた様(湯王)に勇気と知恵を賜り、万国の模範として正し、禹の旧業を継がせられた。あなた様はその古の法に従い、天命を謹んで承けられた。夏王には罪があり、天を欺き偽って、その命令を下々に布告した。天帝はこれを善しとせず、商をもって天命を受けさせ、その師(人材)を明らかにされたのである。」
賢を簡ばず勢に附く者、実に繁く徒有り。我が邦を有夏に肇むるに、苗の莠有るが若く、粟の秕有るが若し。小大戦戦として、非辜を懼れざるは罔し。矧んや予の徳言聴聞するに足るをや。惟れ王声色に邇づかず、貨利を殖やさず。徳は懋むれば官に懋め、功は懋むれば賞に懋む。人を用うるは已の惟くし、過ちを改むるに吝かならず。克く寛に克く仁にして、信を兆民に彰らかにす。
賢者を選ばず権勢にすり寄る者たちが、実に多くはびこっておりました。我らの国が夏の下に興った当初から、苗に混じる雑草のように、粟に混じるしいなのように(悪しき者が混じっておりました)。上下の人々は戦々恐々とし、無実の罪を恐れぬ者はありませんでした。ましてやあなた様の徳の言葉は、なおのこと人々の耳を傾けるに値するものです。あなた様は美声や美色に近づかず、財貨や利益を殖やそうとされませんでした。徳のある者には官職をもって励まし、功績のある者には褒賞をもって励まされました。人を用いるにあたっては自分のことのように親身になり、自らの過ちを改めることに惜しみがありませんでした。よく寛大で、よく仁愛深く、その信義を万民に明らかにされたのです。」
乃ち葛伯餉を仇とせしとき、初征葛自りす。東征すれば西夷怨み、南征すれば北狄怨む。曰わく、奚ぞ独り予を後にする、と。徂く攸の民、室家相慶ぶ。曰わく、予が后を徯つ、后来らば其れ蘇らん、と。民の商を戴くこと、厥れ惟れ旧きかな、と。
かつて葛伯が食糧を運ぶ者を殺したことがきっかけとなり、最初の討伐は葛の国から始まりました。東に進軍すれば西の夷が『なぜ自分たちを後回しにするのか』と怨み、南に進軍すれば北の狄が同じように怨みました。討伐に赴いた先々の民は、家々でともに喜び合い、『我らの君主のご到来を待ちわびていた、君主が来られれば我らは生き返るであろう』と言いました。民が商をこれほど慕うのは、実に古くからのことなのです。」
賢を佑け徳を輔け、忠を顕わし良を遂げしめ、弱きを兼ね昧きを攻め、乱を取り亡を侮る。亡ぶるを推して存を固くすれば、邦乃ち其れ昌んならん。徳日に新たならば、万邦惟れ懐く。志自ら満つれば、九族乃ち離る。王懋めて大徳を昭らかにし、中を民に建てよ。義を以て事を制し、礼を以て心を制し、裕さを後昆に垂れよ。
賢者を助け徳ある者を支え、忠実な者を表彰し善良な者を成就させ、弱った国は併せ、道理に暗い国は討ち、乱れた国は取り、滅びゆく国はそのままにする。滅びゆく者を押し進め、存続する者を固めれば、国はいよいよ栄えるでしょう。徳が日々新たになれば、万国はあなた様に心を寄せます。志がおごり満ちれば、身近な一族さえ離れていくものです。どうか王よ、努めて大いなる徳を明らかにし、民のうちに中庸の道を打ち立ててください。義をもって物事を裁き、礼をもって心を制し、その恵みを後の世に垂れてくださいませ。」
予聞けり曰わく、能く自ら師を得る者は王たり、人已に若く莫しと謂う者は亡ぶ、と。問うを好めば則ち裕かに、自ら用うれば則ち小なり。嗚呼、厥の終を慎むは、惟れ其の始めなり。礼有る者を殖やし、昏暴なる者を覆せ。天道を欽崇し、永く天命を保て、と。
私はこう聞いております。よく自ら師を得る者は王者となり、自分に及ぶ者はないと思い上がる者は滅びる、と。人に問うことを好めば度量が豊かになり、自分だけを頼れば器が小さくなります。ああ、物事の終わりを慎むには、その始めをこそ慎むべきなのです。礼を重んじる者を増やし、道理に暗く暴虐な者は覆してください。天の道を敬い崇め、永く天命をお保ちくださいませ。」
王夏を克つより帰り、亳に至りて、誕いに万方に告ぐ。王曰わく、嗟、爾ら万方の有衆よ、明らかに予一人の誥を聴け。惟れ皇上帝、衷を下民に降し、恒性有るが若くならしむ、克く厥の猷を綏んずるは惟れ后なり。
王(湯)は夏に勝利して帰還し、亳の都に至って、大いに天下万国に布告した。王は仰せられた。「ああ、そなたら天下万国の民衆よ、はっきりと私一人の布告を聴くがよい。かの偉大な上帝は、その正しい心を下々の民に降し、それぞれに変わらぬ善き本性を備えさせられた。この道をよく安んじ導くのが、君主というものである。」
夏王徳を滅し威を作し、以て虐を爾ら万方の百姓に敷けり。爾ら万方の百姓其の凶害に罹り、荼毒に忍びず、並びに無辜を上下の神祇に告ぐ。天道善に福し淫に禍し、災を夏に降して、以て厥の罪を彰らかにす。肆に台小子、天命の明威を将い、敢えて赦さず。敢えて玄牡を用い、敢えて上天神后に昭告して、罪を有夏に請う。
夏王は徳を滅ぼし威を振るい、そなたら天下万国の民に虐政を敷いた。そなたら万国の民はその凶害に遭い、その苦しみに耐えかね、こぞって無実の訴えを天地の神々に告げた。天の道は善なる者に福を与え、みだらな者には禍を下す。天は夏に災いを降し、その罪を明らかにされた。それゆえ私は、天命の明らかな威光を執行し、あえて赦すことをしない。あえて黒い牡牛を供え、あえて天神・地祇に明らかに告げ、夏の罪を糺すことをお願い申し上げた。」
上天下民を孚佑し、罪人黜伏す。天命僭わず、賁くこと草木の若く、兆民允に殖ゆ。予一人をして、爾ら邦家を輯寧せしむ。茲に朕未だ上下に戻るを獲るを知らず、慄慄として危懼すること、将に深淵に隕ちんとするが若し。凡そ我が造邦、匪彝に従うこと無く、慆淫に即くこと無く、各爾の典を守り、以て天の休を承けよ。
天は下々の民を信じて助け、罪ある者は退けられ屈服した。天命は違うことなく、草木が咲き誇るように輝かしく、万民はまことに繁栄している。私一人にこの天下万国を安らかに治めさせてくださった。今なお私は、天地に対して何か過ちを犯してはいないかと分からず、深い淵に落ちるかのように、恐れ慎んでいる。すべての我が建てた国々よ、道理に外れた行いに従うことなく、みだらな快楽に近づくことなく、それぞれ自らの法度を守り、天の恵みを受け継ぐがよい。」
爾ら善有らば、朕敢えて蔽わず。罪朕が躬に当たらば、敢えて自ら赦さず、惟上帝の心に簡るのみ。其れ爾ら万方罪有らば、予一人に在り。予一人罪有らば、爾ら万方を以てすること無かれ。嗚呼、尚わくば克く時忱にせば、乃ち亦終わり有らん。
そなたらに善行があれば、私は決してそれを覆い隠すことはしない。もし罪が私自身にあるならば、私はあえて自らを赦すことはしない。それはただ上帝のお心にお委ねするのみである。もしそなたら天下万国に罪があれば、その責めは私一人にある。もし私一人に罪があるならば、それをそなたら天下万国のせいにすることはしない。ああ、どうかよくこの心を誠実に保つならば、きっと善き終わりを迎えることができるであろう。」