書経 商書(三)

西伯戡黎 ――紂王の無道を賢臣・祖伊が諫める

この読本について

商の最後の王・紂の時代、西方の諸侯の長であった西伯(後の周の文王)が黎の国を討ち、その勢いが商にまで迫った。これに恐れをなした賢臣・祖伊が、紂王のもとに馳せ参じて諫言する場面です。商書の中でも比較的短く、原文が明確な篇のため、先にお届けします。残る盤庚上中下・説命上中下・高宗肜日・微子は次回以降となります。

西伯戡黎(せいはくかんれい)

西伯(文王)が黎を討ったことに驚いた祖伊が、紂王の無道を諫めるが聞き入れられない。商の滅亡を予感させる一篇。

西伯既戡黎、祖伊恐、奔告于王。曰、天子、天既訖我殷命。格人元龜、罔敢知吉。非先王不相我後人、惟王淫戲用自絕。故天棄我、不有康食。不虞天性、不迪率典。今我民罔弗欲喪、曰、天曷不降威。大命不摯、今王其如台。

西伯せいはくすでれいつ、祖伊そいおそれて、おう奔告ほんこくす。曰わく、天子てんしよ、てん既にいんめいう。格人かくじん元亀げんきも、えてきちを知ることし。先王せんおう後人こうじんたすけざるにあらず、ただおう淫戯いんぎにしてもって自らてばなり。ゆえに天我をて、康食こうしょく有らざらしむ。天性てんせいはからず、率典そつてんしたがわず。今我がたみほろびんことをほっせざるく、曰わく、天曷なんを降さざる、と。大命たいめいいたらざるも、今王(おう)其れわれ如何いかんせん、と。

西伯(文王)がすでに黎の国を討ち破ったので、祖伊は恐れて紂王のもとに馳せ参じ、告げた。「天子よ、天はすでに我が殷の命運を絶とうとしております。優れた占い師も、大亀による占いでさえも、もはや吉兆を知ることができません。これは先王が我ら後の世の者を助けてくださらないのではなく、ただ王ご自身が淫らな遊興にふけり、自ら天との縁を断ち切ってしまわれたからです。それゆえ天は我らを見捨て、安らかな食すら得られなくしております。王は天が与えた本性を顧みず、常なる法にも従っておられません。今、我が民は誰もが滅びを望まぬ者はなく、『天はなぜ威罰を下さないのか』とまで言っております。天命はまだ完全には下されておりませんが、今、王よ、あなたはこれをどうなさるおつもりですか。」

王曰、嗚呼、我生不有命在天。祖伊反曰、嗚呼、乃罪多參在上、乃能責命于天。殷之即喪、指乃功、不無戮于爾邦。

王曰わく、嗚呼ああせいめいてんる有らずや、と。祖伊反かえりて曰わく、嗚呼ああなんじつみ多くしてさんとしてかみに在り、乃能すなわちよめいてんもとめんや。いんいてほろぶるは、なんじこうす、なんじくにりくからんや、と。

王は言った。「ああ、私のこの生は、そもそも天に定められた命ではないのか(だから何も恐れることはない)。」祖伊は退きながら言った。「ああ、あなたの罪は数多く積み重なって天にまで届いております、それでどうして天に自分の命運を求めることができましょうか。殷がこのまま滅びるのは、まさにあなたご自身の行いが招いたことです、あなたの国に破滅が訪れぬはずがありましょうか。」